アルコール感受性遺伝子検査について

アルコール感受性遺伝子検査について

アルコール感受性遺伝子検査は、アルコール医療および関連研究を行っている独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長の監修により、国内外の最新の研究により構築された質の高い科学的根拠に支えられています。

解析部位について
・ADH1B遺伝子(アルコールデヒドロゲナーゼ1B遺伝子) Arg47His多型(rs1229984)
・ALDH2遺伝子(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子)Glu487Lys多型(rs671)

客観的データの選択方法について

主として、Peer Review Journalに掲載された論文のうち日本人を対象として行われた観察研究を中心に検索し、それらのデータを採用しました。その中には、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの研究グループや愛知県がんセンター研究所の研究グループなど複数の研究グループによって得られたほぼ同一の結果に基づいています。
採用した論文は下記リストの通りです。

客観的データに含まれている内容について

アルコールはアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase: ADH)によりアセトアルデヒドに酸化され、さらにアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH) により酢酸へと代謝されます。これまで複数の研究グループによる多くの研究から、日本人のアルコール摂取時の反応性の出方に影響を与える遺伝子多型が、ADH1B遺伝子(アルコールデヒドロゲナーゼ1B遺伝子) Arg47His多型(rs1229984)とALDH2遺伝子(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子)Glu487Lys多型(rs671)の2つであることが明らかとなっており、そのためこれら2つの遺伝子多型を検査対象としました。

本検査において参考としているデータにCancer Epidemiol Biomarkers Prev.の第15巻5号の1009~1013頁(2006年)に掲載された論文のデータがあります。本論文には、アルコール依存症に罹患していない2299名(男性989名,女性1310名)を対象に、本遺伝子検査で検査するALDH2遺伝子(アルデヒドデヒドロゲナーゼ2遺伝子) Glu487Lys多型(rs671)およびADH1B遺伝子(アルコールデヒドロゲナーゼ1B遺伝子) Arg47His多型(rs1229984)と飲酒した場合の反応性が詳細に研究されており、非常に信頼性の高いデータとなっております。

反証・反対意見について

ADH1B遺伝子のArg47His多型(rs1229984)とALDH2遺伝子のGlu487Lys多型(rs671)が、アルコールの摂取時の反応性(顔面紅潮・動悸・頭痛等)についての個人差や、飲酒習慣(アルコール摂取量によりリスクは変わる)を長年続けた場合の各種疾患リスク(上部消化器癌等)の個人差に影響を与えることは、複数の研究グループによる多くの研究により明らかとなっています。これらの知見を覆す十分な反証・反対意見は現在のところ見当たりません。

同意書および確認書について

以下のリンクをクリックいただくと、同意書および確認書をご覧いただけます。
●アルコール感受性遺伝子検査 同意書
●アルコール感受性遺伝子検査 確認書(中1~19歳)

検査結果について

アルコール感受性遺伝子検査を受けた方へお送りする検査結果には、アルコールを摂取した場合の体の反応性(いわゆる、お酒に強い・弱いetc.)以外に、健康自己管理の観点から、過度の飲酒を続けた場合の上部消化器癌のリスクについても言及しておりますのでご注意ください。アルコールは、以下のようにアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに酸化され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へと代謝されます。





ADHには複数の種類があり、その中でADH1Bと呼ばれるタイプの酵素には遺伝的にアルコール代謝速度が遅い低活性のタイプが存在します。試験管レベルの実験では、低活性型の酵素は高活性型の酵素の約40分の1の低速度でアルコールを分解することが報告されています。また、生体内の実験ではADH1Bが低活性型のヒトでは、高活性型のヒトよりもアルコール分解速度が約13%遅く、さらに大量に連日飲酒するアルコール依存症患者の場合、飲酒翌日にまで高濃度のアルコールが残り、非常に酒臭いのはこの低活性型のヒトと考えられます。約4.9%の日本人では ADH1Bが低活性型ですが、低活性型のヒトは大酒家になりやすく、アルコール依存症患者では約3割が低活性型であることが知られています。すなわち、ADH1Bが低活性であると同じ量の飲酒でもアルコールが体内に長く残るため耐性や依存性が発生しやすく大酒家やアルコール依存症になりやすいと考えられます。この低活性型のADH1Bのヒトは飲酒量の増加を介して発癌に関連し、同程度に飲酒した場合、低活性型のヒトのほうが1.6~8.4倍の危険性で腔咽頭や食道の癌になりやすいことが報告されています。



同じように、ALDHにも複数の種類があり、中でもALDH2と呼ばれるタイプの酵素が最も重要なアセトアルデヒドの分解酵素と言われています。日本人ではALDH2遺伝子の組み合わせが欠損・正常のヘテロ欠損者(ALDH2*1/*2;約40.9%)と、欠損・欠損のホモ欠損者(ALDH2*2/*2;約9.5% )では正常者(ALDH2*1/*1;約49.6%)と比べ、日本酒1合相当の飲酒実験で6倍、19倍のアセトアルデヒド血中濃度を生じることが報告されています。そのため、ALDH2欠損者は少量飲酒で顔が赤くなるフラッシング反応を起こし、少ない飲酒量で二日酔いにもなりやすいことも示されています。





日本酒換算で3合以上毎日飲酒する大酒家男性の2割以上、アルコール依存症者男性の1割以上はALDH2ヘテロ欠損者(ALDH2*1/*2)であり、高濃度の発癌性アセトアルデヒドに暴露される食道や下咽頭では発癌リスクは極めて高いことが報告されています。もし1週間に9合程度の飲酒を続けた場合、食道癌のリスクはALDH2遺伝子型の違いによって個人間で何倍もの差があることがわかってまいりました。特に、ハイリスクの遺伝子型を持つ方は、より積極的に節酒に励むことが好ましいと考えられます(下図参照)。





ALDH2低活性型(ALDH2*1/*2)とADH1B低活性型(ADH1B*1/*1)の組み合わせは日本人の約1.8%に過ぎませんが、日本人の約5割を占めるALDH2高活性型且つADH1B活性型または高活性型のヒトと比べて、同程度に飲酒したとすると 30~40 倍も食道癌や下咽頭癌になる危険性が高いことが報告されています。さらに悪いことに、ALDH2低活性型のヒトの多くは飲酒が不快な反応を起こすフラッシャーですがが、ADH1B低活性型でもあると、アセトアルデヒドの初期産生がゆっくりでフラッシング反応が起こりにくく、赤くならずに自分は酒に強い体質と錯覚しながら飲酒量が増えていく傾向があるのです。



このようにアルコールの代謝に関わるALDH2遺伝子およびADH1B遺伝子のタイプの違いにより、アルコールによる食道や下咽頭等の発癌リスクには差があることが明らかになっており、日常の健康管理の観点から、自らの体質を理解することの重要性に鑑み、飲酒に伴う発癌リスクについても検査結果レポート中では言及しております。



(参考資料)
1) Baan R, Staif K, Grosse Y, et al. Carcinogenicity of alcoholic beverages. Lancet Oncol 8: 292-293(2007).
2) Yokoyama A, Omori T. Genetic polymorphisms of alcohol and aldehyde dehydrogenases and risk for esophageal and head and neck cancers. Jpn J Clin Oncol 33:111-121(2003).
3) Mizoi Y, Yamamoto K, Ueno Y, et al. Involvement of genetic polymorphism of alcohol and aldehyde dehydrogenase in individual variation of alcohol metabolism. Alcohol Alcohol 29:707-710(1994).
4) M uramatsu T, H iguchi S, S higemori K, et al. Ethanol patch test: A simple and sensitive method for identifying ALDH phenotype. Alcohol Clin Exp Res 13:229-231(1989).
5) Yokoyama M, Yokoyama A, Yokoyama T, et al. Hangover Susceptibility in Relation to Aldehyde Dehydrogenase-2 Genotype, Alcohol Flushing, and Mean Corpuscular Volume in Japanese Workers. Alcohol Clin Exp Res 29:1165-1171(2005).
6) Yokoyama T, Yokoyama A, Kato H, et al. Alcohol flushing, alcohol and aldehyde dehydrogenase genotypes, and risk for esophageal squamous cell carcinoma in Japanese men. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 12:1227-1233(2003).



以下のリンクをクリックいただくと、検査結果レポートの見本をご覧いただけます。
●アルコール感受性遺伝子検査 結果見本



採用した論文リスト

1).Matsuo K et al. Alcohol dehydrogenase 2 His47Arg polymorphism influences drinking habit independently of aldehyde dehydrogenase2 Glu487Lyspolymorphism:analysis of 2299 Japanese subjects.Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.2006 May;15(5):1009-13
2).Vakevainen S et al. High salivary acetaldehyde after a moderate dose of alcohol in ALDH2-deficient subjects: strong evidence for the local carcinogenic action of acetaldehyde. Alcohol Clin Exp Res. 2000 Jun;24(6):873-7.
3).Muramatsu T et al. Ethanol patch test–a simple and sensitive method for identifying ALDH phenotype. Alcohol Clin Exp Res. 1989Apr;13(2):229-31.
4).Yokoyama M et al. Hangover susceptibility in relation to aldehyde dehydrogenase-2 genotype, alcohol flushing, and mean corpuscular volume in Japanese workers. Alcohol Clin Exp Res. 2005 Jul;29(7):1165-71.
5).Takeshita T. Genetic factors which regulate alcohol drinking behavior and their effects on health status. Nippon Eiseigaku Zasshi. 1999Jul;54(2):450-8.
6).Yokoyama A et al. Genetic polymorphisms of alcohol and aldehyde dehydrogenases and risk for esophageal and head and neck cancers. Jpn J ClinOncol. 2003 Mar;33(3):111-21.
7).Takeshita T et al. Relevance of both daily hassles and the ALDH2 genotype to problem drinking among Japanese male workers. Alcohol Clin Exp Res. 1998 Feb;22(1):115-20.
8).Higuchi S et al. Alcohol and aldehyde dehydrogenase polymorphisms and the risk for alcoholism. Am JPsychiatry. 1995 Aug;152(8):1219-21.
9).Chen Ccet al. Interaction between the functional polymorphisms of the alcohol-metabolism genes in protection against alcoholism. Am J Hum Genet. 1999 Sep;65(3):795-807.
10).Takagi S at al. Aldehyde dehydrogenase 2 gene is a risk factor for myocardial infarction in Japanese men. Hypertens Res . 2002 Sep;25(5):677-81.
11).Takeshita T. Gene-environmental interactions in alcohol-related health problems–contributions of molecular biology to behavior modifications.Nippon Eiseigaku Zasshi. 2003 May;58(2):254-9.
12).Neumark YD et al. Alcohol dehydrogenase polymorphisms influence alcohol-elimination rates in a male Jewish population. Alcohol Clin Exp Res.2004 Jan;28(1):10-4.
13).Yokoyama T et al. Alcohol flushing, alcohol and aldehyde dehydrogenase genotypes, and risk for esophageal squamous cell carcinoma in Japanese men. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2003 Nov;12(11 Pt 1):1227-33.
14).Harada S et al. Possible protective role against alcoholism for aldehyde dehydrogenase isozyme deficiency in Japan. Lancet . 1982 Oct9;2(8302):827.
15).村松太郎 特集Ⅱ・飲酒と遺伝 アルコール依存症と遺伝子. 生物の科学 遺伝. 1999;53(10):62-66.
16).Kato N. et al. Meta-analysis of genome-wide association studies identifies common variants associated with blood pressure variation in East AsiansNat Genet. 2011 June; 43(6): 531?538.
17).Takao A at al. Correlation between alcohol-induced asthma and acetaldehyde dehydrogenase-2 genotype. J Allergy Clin Immunol. 1998 May;101(5):576-80.
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19).Yokoyama A et al. Genetic polymorphisms of alcohol and aldehyde dehydrogenases and glutathione S-transferase M1 and drinking, smoking, and diet in Japanese men with esophageal squamous cell carcinoma. Carcinogenesis. 2002 Nov;23(11):1851-9.
20).竹端均, 和泉徹 アルコールの身体作用:アルコール関連臓器障害 アルコールと循環器疾患. 医学のあゆみ. 2007 ;222(9):638-42.
21).日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン作成委員会編 高血圧治療ガイドライン2009 日本高血圧学会(2009年発行)
22).Hori H et al. Genetic polymorphisms of tobacco- and alcohol-related metabolizing enzymes and human esophageal squamous cell carcinoma susceptibility. J Clin Gastroenterol. 1997 Dec;25(4):568-75.

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