●NAT2とは

N-アセチル化転移酵素2(N-acetyltransferases 2)の略称で、アセチルCoAのアセチル基を、本酵素の基質となる芳香族アミンやヒドラジン含有化合物に転移する酵素(EC2.3.1.5)です。抗リウマチ薬のサラゾスルファピリジン(Salazosulfapyridine)、抗結核薬イソニアジド(Isoniazid;INH(Isonicotinic Acid Hydrazide))、抗てんかん薬のクロナゼパム(Clonazepam)、不整脈治療薬のプロカインアミド(Procainamide)、睡眠薬のニトラゼパム(Nitrazepam)、降圧剤のヒドララジン(Hydralazine)や抗菌剤のスルファメトキサゾール(Sulfamethoxazole)などの臨床的に重要なおくすりの代謝に関わっています。

NAT2酵素をコードしているNAT2遺伝子は、下図のようの8番染色体の短腕上に位置しています。

8本の染色体図

8番目の染色体
NAT2をコードするNAT2遺伝子には、複数の一塩基多型(SNP;single nucleotide polymorphism)が存在することが報告されています1)~4)。その代表的なものがが①191G>A(rs1801279)、②282C>T(rs1041983)、③341T>C(rs1801280)、④481C>T(rs1799929)、⑤590G>A(rs1799930)、⑥803A>G(rs1208)、⑦857G>A(rs1799931)の7個のSNPです。それらの中で①、③、⑤、⑥、⑦のSNPがアミノ酸の変化をもたらします(①191G>Aがアルギニンからグルタミン酸、③341T>Cがイソロイシンからトレオニン、⑤590G>Aがアルギニンからグルタミン、⑥803A>Gがリジンからアルギニン、⑦857G>Aがグリシンからグルタミン酸)。

そしてこれらの変異の組み合わせにより、以下のように多くの組み合わせが存在します。この中で日本人において存在が確認されているハプロタイプがNAT2*4(野生型ハプロタイプ)以外に、NAT2*5B、NAT2*6A、NAT2*13、NAT2*TCTAG、NAT2*TCTGGが存在します。

日本人にみられるハプロタイプを下図に示しました。

図1 日本人にみられるハプロタイプ
図1 日本人にみられるハプロタイプ

表1

NAT2 ハプロタイプ 塩基変化 アミノ酸変化 アセチル化速度
野生型 *4 無し 無し Rapid
変異型 *5A 341T->C Ile114Thr Slow
481C->T 無し
*5B 341T->C Ile114Thr Slow
481C->T 無し
803A->G Lys268Arg
*5C 341T->C Ile114Thr Slow
803A->G Lys268Arg
*5D 341T->C Ile114Thr Slow
*5E 341T->C Ile114Thr Slow
590G->A Arg197Gln
*5F 341T->C Ile114Thr Slow
481C->T 無し
759C->T 無し
803A->G Lys268Arg
*5G 282C->T 無し Slow
341T->C Ile114Thr
481C->T Lys268Arg
803A->G 無し
*5H 341T->C Ile114Thr Slow
481C->T 無し
803A->G Lys268Arg
859T->C Ile287Thr
*5I 341T->C Ile114Thr Slow
411A->T Leu137Phe
481C->T 無し
803A->G Lys268Arg
*5J 282C->T 無し Slow
341T->C Ile114Thr
590G->A Arg197Gln
*6A 282C->T 無し Slow
590G->A Arg197Gln
*6B 590G->A Arg197Gln Slow
*6C 282C->T 無し Slow
590G->A Arg197Gln
803A->G Lys268Arg
*6D 111T->C 無し Slow
282C->T 無し
590G->A Arg197Gln
*6E 481C->T 無し Slow
590G->A Arg197Gln
*7A 857G->A Gly286Glu Slow
*7B 282C->T 無し Slow
857G->A Gly286Glu
*10 499G->A Glu167Lys 未定
*11A 481C->T 無し 未定
*11B 481C->T 無し 未定
859Del S287フレームシフト
*12A 803A->G Lys268Arg Rapid
*12B 282C->T 無し Rapid
803A->G Lys268Arg
*12C 481C->T 無し Rapid
803A->G Lys268Arg
*12D 364G->A Asp122Asn 未定
803A->G Lys268Arg
*13 282C->T 無し Rapid
*14A 191G->A Arg64Gln Slow
*14B 191G->A Arg64Gln Slow
282C->T 無し
*14C 191G->A Arg64Gln Slow
341T->C Ile114Thr
481C->T 無し
803A->G Lys268Arg
*14D 191G->A Arg64Gln Slow
282C->T 無し
590G->A Arg197Gln
*14E 191G->A Arg64Gln Slow
803A->G Lys268Arg
*14F 191G->A Arg64Gln Slow
341T->C Ile114Thr
803A->G Lys268Arg
*14G 191G->A Arg64Gln Slow
282C->T 無し
803A->G Lys268Arg
*17 434A->C Gln145Pro 未定
*18 845A->C Lys282Thr 未定
*19 190C->T Arg64Trp 未定
TCTAG(※1) 282C->T 無し Slow
341T->C Ile114Thr
481C->T 無し
590G->A Arg197Gln
TCTGG(※2) 282C->T 無し Slow
341T->C Ile114Thr
481C->T 無し

そして、上記のハプロタイプの組み合わせにより、ディプロタイプの遺伝子型が決まります。日本人の場合、表1のようにNAT2*4/NAT2*4(野生型/野生型)の遺伝子型の人が約51.2%、NAT2*4/ NAT2*6A(野生型/変異型)の遺伝子型の人が約25.0%、NAT2*4 NAT2*7B(野生型/変異型)の遺伝子型の人が約13.9%、NAT2*6A/NAT2*7B(変異型/変異型)の遺伝子型の人が約3.4%、NAT2*6A/NAT2*6A(変異型/変異型)の人が約3.1%存在し、その他のディプロタイプの遺伝子型の存在比率は表1のようになります。このNAT2のディプロタイプの遺伝子型と表現型との間には相関があり、表1のように遺伝子変異の有無によりアセチル化速度の高いRapid Acetylator(RA-type,W/W)、アセチル化速度が中間タイプのIntermediate Acetylator(IA-type,W/M)、アセチル化速度の遅いSlow Acetylator(SA-type,M/M)とに分類されます。なお、NAT2*12A、NAT2*12B、NAT2*12C、NAT2*13は変異型であるにもかかわらずRA-typeであることが報告されています。

Rapid Acetylator (RA-type)

NAT2*4のホモ接合体

Intermediate Aetylator(IA-type)

NAT2*4と変異型遺伝子のヘテロ接合体

Slow Acetylator (SA-type)

変異型遺伝子の組み合わせ

表 日本人でそれぞれのハプロタイプの組み合わせの出現頻度

図2は、NAT2のタイプをRapid Acetylator(図中ではFast Acetylator)とSlow Acetylatorに分類した場合の世界の各地域におけるそれぞれの存在比率を表したものです。なお、Intermediate AcetylatorはRapid Acetylatorに含んで示してあります。ヨーロッパでは多くの地域で半分以上の人々がSlow Acetylatorに分類されるのに対し、日本を含む東アジア地域ではRapid Acetylatorがメインとなっており、進化学的に何故このような民族差が生まれたのかは、興味深いものがあります。

肺結核の治療に使われるイソニアジド(INH)の標準投与量は、長い間、欧米では300mg/day(1日1回)、日本では400mg/day(1日2回)でした。Slow Acetylatorの頻度は欧米人では50%以上、日本人では約10%と人種差が見られ、その頻度の違いが、このような欧米と日本とのINH投与量の差違に影響を与えていると考えられます2)

図2 ジェノタイプデータに基づく推定アセチル化フェノタイプの分布 図2 ジェノタイプデータに基づく推定アセチル化フェノタイプの分布1)

(参考文献)
1) Sabbagh A1, Darlu P, Crouau-Roy B, Poloni ES. Arylamine N-acetyltransferase 2 (NAT2) genetic diversity and traditional subsistence: a worldwide population survey.PLoS One. 2011 Apr 6;6(4):e18507.[PMID 21494681]
2) 渡邊麻里子,大野雅子,山原彩子,森崎智子,山口郁未,石川秀雄,山本勇,東純一.NAT2遺伝子多型が及ぼすINHとその代謝物の血中濃度ならびに肝機能障害発現への影響.臨床薬理.2000 Mar 31(2):283-284.